【配偶者居住権】住み慣れた自宅に住み続けたい

配偶者居住権とは

例えば、夫が亡くなったとして、残された妻が夫名義だった家に当然のように住み続ける事が出来るでしょうか。遺言を残すことなく亡くなり法定相続分で分割して相続すると、配偶者は1/2以上の所有権を取得することになりますが、残りの部分は他の相続人が所有することになります。

この時、他の相続人が自分の所有分の買取を要求したり、家賃の支払いを要求した場合、残された妻に支払い能力があれば良いのですが、支払えない場合には、やむを得ず住み慣れた家を手放さざるを得ないこともあるでしょう。

このような事態にならないように一定の要件の下、配偶者には住み慣れた家に住み続ける権利(使用、収益権)である「配偶者居住権」が平成30年に民法を改正し創設されました。(民1028条~1036条)

配偶者居住権の要件

法律上の婚姻関係にあること

被相続人と法律上の婚姻関係にあること。事実婚等の内縁関係は対象となりません。

相続開始時に居住していたこと

配偶者が相続開始の時に実際にその家に居住していたこと。(時々使うではなく、その家を失えば済むところが無くなってしまうような状態)

家の所有者が被相続人のみであったこと

被相続人が相続開始時に家を、配偶者以外の他の者と共有していた場合は配偶者居住権の対象となりません。

配偶者居住権を取得するには

遺産分割または遺贈による取得

共同相続人間での遺産分割協議で配偶者に配偶者居住権を取得させることを合意した場合

被相続人が遺言で配偶者に配偶者居住権を遺贈した場合

家庭裁判所の審判による取得

配偶者が家庭裁判所に配偶者居住権の取得のための申し出を行い、家庭裁判所の審判により配偶者居住権の取得が決定された場合

配偶者居住権の存続期間

配偶者居住権が設定された場合の存続期間は配偶者が生きている間です。但し、遺産分割協議や遺言、家庭裁判所の審判で別の期間が設定された場合はその期間となります。

配偶者居住権の登記義務

配偶者居住権は登記することで第三者に対抗することが出来るようになります。配偶者居住権は、その住居の所有者が登記する義務を負っています。

配偶者居住権の効果と制限

使用と収益

配偶者居住権の譲渡は出来ません。

配偶者居住権を持つ配偶者は、その住居を無償で住居を使用及び収益をすることができます。但し所有者が別にいますので、住居に関しては善管注意義務(自分のもの以上に大切に扱う義務)が課せられています。

住居の改築、増築や第三者にその住居を使用させたり、収益させたりするためには、所有者の許可が必要です。

配偶者が善管注意義務や所有者の許可なく住居の改築、増築や第三者にその住居を使用させたり、収益させたりしている時は、所有者は相当な期間を定めて是正するよう要請し、その期間内に是正されないときは配偶者居住権を消滅させることが出来ることになっています。

修繕

配偶者居住権を持つ配偶者は、住居を使用及び収益するために必要な修繕をすることが出来ます。逆に、修繕が必要なのに配偶者が修繕せずに放置しているような場合には、その住居の所有者が自ら修繕をすることが可能です。また、配偶者が、その住居に対する修繕の必要性やその他の重要な情報をつかんだ時には所有者に通知する義務があります。

必要費の負担

住居での通常の必要費については配偶者の負担とされています。
通常の必要費には修繕費の他に、住居(含む土地)の固定資産税も含まれるとされています。

配偶者居住権の消滅

配偶者居住権は配偶者が死亡した時は当然消滅しますが、次ようなときにも消滅します。
存続期間が設定されていればその期間の終了、所有者から消滅請求がされたとき、住居の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合などです。
配偶者居住権が消滅して住居が所有者に返還される時には、借主による収去等(民599条)、原状回復義務(民621条)の民法の規定が準用されます。

配偶者居住権のメリット

配偶者居住権を取得する事のメリットは、住居を法定相続分で相続してしまうと、住み続けるために他の相続人からそれなりの代償を要求されてしまう場合や、住居を優先的に遺産分割で入手すると現金などの金融資産が入手出来ないなどの、配偶者のその後の生活に問題が起こる可能性がある場合が考えられます。

あるいは、住居を配偶者に相続させてしまうと、将来自分の血族以外に渡ってしまうのではないか心配である場合なども考えられます。

いづれにしても、相続人の関係が良好であれば、配偶者が住み慣れた家を追い出されるような心配はがないのであれば、あまり検討の必要はないのかもしれませんが、以下のような場合には積極的に検討した方が良いかもしれません。

  • 後妻の住居を確実に確保してやりたい
  • 相続財産にしめる自宅(土地・建物)の価値が大きい
  • 自宅は子供らの直系の血族に引き継がせたい(配偶者の親戚等に流失してほしくない)

自分が亡くなった後の、配偶者の住居が気になるのなら、配偶者居住権を遺言で指定しておくことも検討してはいかがでしょうか、遺言書で残す場合は、遺言書には決められた様式があります、せっかく書いても無効となることもあります、このような事態にならないためにも専門家のサポートを受けると安心です。
残された相手のことを思い、自分の財産を最も望ましい相手に譲り渡すためには、正しい様式で遺言書を残す事をご検討ください。

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